失恋セックス

そのセックスにはきっとどんな音楽も似合わない。

僕がどんなにエモいのが好きだからって、tofubeatsの「水星」も違うし。相手がどんなに魅力的で眩んでしまうからと言って、椎名林檎の「丸の内サディスティック」も似合わない。

 

僕たちは、僕が前の彼女と付き合う前からの知り合いで、彼女が今の旦那さんとカップルだった頃からの知り合いだ。

 

月に一回は会わないし、2ヶ月に一回も会わない。

その時はただ「なんとなく」だったんだ。なんとなく彼女に振られた僕は、なんとなくご飯を一緒に食べてくれる人を探してた。きっと彼女もそんな感じだったんだろう。

 

ゆっくりうどん屋さんに入って、お昼を2人で食べた。

僕は彼女に振られたことを話したし、向こうは最近ハマってるドラマの話をしてた。

 

「この後どうするの?」

相手が僕に聞く。僕はこの日は髪を切りに隣町に来ていて、お昼を食べて帰るつもりだった。なのでその旨を伝えた。

「帰るよ。特に何も無いから、家に帰って寝る。」

「同級生で新しい彼女探さないの?」

「年上にしか興味ないからね。」

「暇ならさ」

「うん」

「ホテル行こうよ」

「セックスすんの?俺前の彼女ともしてないよ?急に人妻抱くのはウケる。」

「どうすんの?」

「いいよ。ホテル代出してね。」

「いいよ。そのかわり言うこと聞いてよ。」

 

こうして僕は彼女の車に乗り込み、ラブホテルへ向かった。

 

ホテルに着くと僕たちはまずお風呂にお湯を張り、それから揃ってタバコに火を付けた。

「あれ?そうくん辞めてなかったの?」

「彼女に振られたショックで復活。」

「ウケる。可愛いじゃん。」「ねぇ。チューしよ。」

「歯磨きいいの?」

「私が払うんだから言うこと聞いてよ。」

言われるがままに、唇を重ねる。彼女が舌を絡めればそうしようと思ったが、そういうチューでは無いらしい。彼女の吸うメンソールの香りの煙が唇から滑り込む。

 

彼女と目を見合わせた僕は、もう戻れないんだなぁと思った。

 

彼女は30歳のくせに、歳に似合わない笑顔を見せながら「AVみよ」って言ってきた。

僕はソファに腰掛けていて、彼女は僕の膝に腰掛けていた。

有料チャンネルをつけると、裸の男女が温泉で絡み合い、クンニの真っ最中だった。

「お風呂でこれしようよ」

「30のやる体位じゃないだろ。」

彼女の提案をいなそうかと思ったが、ホテル代は彼女持ちだった。

 

女の人とお風呂に入るのはいたって久しぶりだが、不思議と勃起はしなかった。

「ありゃ。彼女に振られてED?」失敬な友達だ。

「まみには興奮しないって言ってるんじゃない?」

「男子高校生なのに生意気だなぁ。」ほっぺたを膨らませながら、ゆるくウェーブのかかった長い髪が、湯に浸からないようにゴムでまとめていた。

 

「クンニしてよ」

 

僕は返事もせずに、彼女の下半身が湯から出るように持ち上げる。

「実は、今日セックスしようと思って家でお風呂はいってきたんだ。洗ってきたよ笑」

意外と可愛いじゃん。言葉には絶対出さないけど。

 

彼女の下半身は、お湯なのか、僕の唾液なのか、彼女から溢れるものなのか、わからないが濡れていた。不快な臭いはなく、すんなりとバラのような香りがした。

 

ひと通りクンニをすると、

「ベッドいこう」と言われた。僕はホテル代を払わないので、そういうことになる。

 

お風呂から上がった僕らは、薄いガウンをまといベッドに横になった。

僕は紳士で、ムードを大切にする人間だ。しばらくの間、僕とまみはうどん屋の会話の続きをした。何で別れたのかとか、さっきのクンニが上手くなかったとか。

「キスしてよ」

「チューとどう違うの?」僕は純粋にわからなかった。

「ムードで決めるの」

なるほど、僕はまだ紳士で、ムードを大切にできていないようだ。

 

ゆっくり舌を絡ませながらも、僕は彼女のガウンの紐を解いた。

ゆっくり下に落ちるガウンの速度よりもゆっくりと、僕は彼女の首筋に舌を這わせる。

ゆっくりと丁寧に、なるべく前の彼女を忘れて、今この場所にあるセックスという事象に没頭するように。

 

急に彼女は、僕らの上下をひっくり返してきた。

今までは彼女が下で、僕が上だったのに。この一瞬で僕が下で彼女が上だ。

「旦那と2年もしてない。たまには襲わせてよ。」

いうより早く彼女は僕の体に馬乗りになって、すっかり僕は身動きが取れない。

彼女の愛撫は、ちょっぴり早いけどムードがあった。

 

あんな事やこんなことで、前戯をじっくり楽しんだ僕らは、ゆっくりと本番に移った。

 

何の打ち合わせもなく、うどん屋のような会話もしていないけれど、僕らは自然と対面座位になっていた。彼女の膣の温度をゆっくりと感じながら、上下に動くことはなく。僕らは、1つになったままゆっくりとキスをした。きっとあれはチューではなくキスだった。お互いに愛を奪おうとするようなキスだった。きっと僕はこのキスを忘れないだろうと思う。けれど、前の彼女のことも好きだなぁと心のどこかで思っている自分の影も感じた。

 

もしセックスが、「先にイカせてあげた方が勝ち」っていうゲームなら今回は僕の勝ちだ。

彼女が2回目の頂上に着く前に僕も果てていたけど。

ゆっくりとコンドームを外した僕らは、挿入はせずに対面座位のまま抱き合った。彼女の背中はスベスベしていた。そのまま10分くらいそうしていた。

 

それから2人でお風呂に向かった。

学校の話や、今度旦那を誘ってみるっていうような話をした。きっと僕はまだ前の彼女が好きなままだ。って言ったら、まみは優しく額にキスしてくれた。

 

お風呂から出た僕らは、また一本煙草に火をつけて、めんどくさい事情も置き去りにしてホテルを後にした。